画像は書籍版から。
『陰の実力者になりたくて!』Web版の感想はじめますよ。
書籍コミックも出てるので、こちらもかなりの人気作品みたい。
どうも累計ランキングで6位らしい。
どちらの絵もダークな世界観で、見た目からしてかなり格好良いですね。

5月の初旬ぐらいに『無職転生』を一旦中断してこっそりやっていた、「小説家になろう」体験記の第2弾です。
「もっと”なろうっぽい”作品も体験してみよう」というコンセプトで2章までしか読んでいないので、今回はかなりライトですよ。


1章

お、おう、かなり適当で色々省略されてるっぽい導入部。
そして主人公が初登場の時点から狂人の香りがするぞ……。
現世での死因描写が結構曖昧なんですけど『無職転生』を経て成長した今の私には、何が起きたか分かる。
トラックで轢かれたんだね?

転生してから一気に10年経過したし、展開がメチャクチャ早い。
「さっさと本編に入りたい」という作者さんの強い意思を感じるなぁ。

盗賊って歩くボーナスステージだよね まで

すごい!『無職転生』と全然違う!

なんというか、「ここらへんはテンプレの前提条件なので省略」とされているであろう箇所が非常に多い。
世界観とか世界の常識とか、何より主人公は手を抜いて訓練してるのに当然のように10歳で異常に強いし、新素材とか調合してる!
その度にどういう「なろう小説的お約束」が背景にあるのかを推理する必要があるぞ!
こ、これは大変だ。
頑張らないと。

髪があれば…… まで

  • 元人間だった肉塊で実験して遊ぶ(外道じゃん)
    ⇒実験の過程で何故か人間に戻ったので手下にする
  • 架空の敵対組織を作り上げて、手下に信じ込ませる
    ⇒棚ぼたで本当にそんな組織がありました

既にツッコミ所にキリがないし、知らない間に説明無しで手下が3人に増えている。
な、なんだこれは。どういう作品なんだ。
早めに作品の方向性を把握しないと飲み込まれるぞ……ッ!

陰の実力者は孤高である まで

主人公、陰の実力者を目指してた割に、転生後は「思わせぶりな人ロールプレイを自覚して楽しむ」という明後日の方向に舵を切ってるな……
そして作り上げた妄想(敵組織の存在とか)が本当に実在する。
でも本人はそれに気付いてないという展開。

これは……おバカコメディだ!(今更)

僕をキレさせたら大したもんだよ まで

色々足場を固めて、学校に入学。
そして説明もなく手下が5人まで増えている。
ここまで進むとさすが「小説家になろう」累計ランキング6位、話の進展が過不足なくテンポが良い。
大したもんだ。

しかしまだターゲット層が分からない。
いわゆる俺TUEEEE並の圧倒的戦闘力はあるものの、陰の実力者を目指してるせいで普段はモブに徹してるんですよね。
つまり、“モブで我慢するパート”がかなり長い。

幻の絵画『モンクの叫び』か……どういう経緯で主人公が持ってるのか全く説明されないし、ただのネタ的舞台装置で使われるというおバカっぷり。
現実世界にある絵画はムンク作『叫び』なんだけど……いやこれ以上はやめておこう。
恐らくこの作品はもっとIQを下げて読まないといけない。

『アイ・アム……』 まで

学校で起きた事件に対してそれっぽく振舞っていたら、超優秀な部下が本当に暗躍していた敵組織を見つけてくれる。
主人公が潜入したら、いい感じにボスがいたので追い詰めるというラッキーマンみたいな展開。

追い詰められた敵ボス「正気か貴様ッ!」

いや、部下が超優秀なだけでこの主人公は正気ではないですよ。
狂気です。

主人公「核で蒸発しない為には核になれば良い。奥技アイ・アム・アトミック!

だ、ダッセエエェェェ!(なぜか笑顔になる私)


1章読了。

  • 主人公、冴えない一般人として事件に巻き込まれる
  • 犯人は権力者
  • 事件発覚後、圧倒的強者として秘密裏に事件を制圧
  • 事件でさらわれた娘さんが家族と再会。終幕。

こ、これは……時代劇だッ!
コメディ要素+なろう風味のある時代劇だッ!
最後の戦闘シーンで暴れん坊将軍の処刑用BGMが脳内で流れたもんな!

2章

女7人、男1人。当然ハブられる まで

私の中での偏見的なろうイメージの一つに「生前知識マウントで大成功」というものがあるんだけど、本作ではそれが「優秀な部下に生前知識を自慢してたら、自分が知らない間にそれを基に部下が大成功していた」という変化球っぷり。
間接的に莫大な富を得るんだけど、主人公はそんな事よりも自分だけ知らなかった事に疎外感感じてるの面白いな。

部下:市政で起きた事件を把握。裏に敵組織がいる事を察知しその尻尾を掴もうとしている。動きが遅くて主には申し訳ないと思っている

主人公:全体的に初耳

強いだけでマヌケな主人公面白いな!
知らない事でも知ったかぶる「カリスマ的虚勢」が上手いので、見た感じはちゃんと”陰の実力者”ができてるんだよな。
1章でも触れたけど、ラッキーマン的な棚ぼた要素も感じる……

君はついてこれるかな? まで

学生同士の武術大会に成り行きで参加する主人公。

  • モブに扮する為に、有り余る身体能力と懐に忍ばせた血袋で大ダメージを演出
    →分かる
  • 「48パターン用意してるからこの一試合で全部試そう
    →アホ

致命傷を受ける度に立ち上がる一般学生(主人公)に会場ドン引き、対戦相手に尊敬されて目立ちまくりだ……
主人公が愛すべきハイスペック馬鹿で好きになってきたぞ!

全宇宙の少年の夢 まで

き、きたぁーっ!
学校をテロリストが占拠する展開!

厨二の権化こと主人公の感動っぷりに笑う。
有り余る身体能力で、最初に殺されるモブの役を断固死守するのすげぇな。
陰の実力者に憧れるのはわかるけど、主人公はモブに関しての美学も徹底してて面白いね。

高度な心理戦の行方 まで

主人公と、優秀過ぎる部下達による反撃&殲滅タイム。
当然のように楽勝で、苦戦をする様子が欠片もないんだけど、水戸黄門でいうと「スケさんカクさん、やっておしまいなさい」のターンなので、読者としても異論はないぞ。
殲滅タイムの前に一般ネームドキャラが一生懸命頑張ってるのも良いですね。

夏の雨はすぐに まで

2章読了。

主人公だけおバカコメディなんだけど、事件の内容や他の登場人物達はかなりシリアスで格好良いので、終わり方は情緒的で切ない。
簡潔な文章なのに情緒性が高く表現されたラストシーンで、奇抜な内容でごまかされそうになるけど、コレ作者さんの文章力かなり高いぞ……。

『陰の実力者になりたくて!』を振り返る

とりあえずこの作品はここまで!

章ごとにキッチリ完結してるので分かりやすいですね。
最初に読んだ『無職転生』との温度差に戸惑ったけど、
・おバカコメディである
・時代劇フォーマットである

という事を理解すると読み方が分かってきた。

シリアスとコメディの同居を簡潔・完璧に表現できる文章力に脱帽しました。

本作、外見だけで判断すると「異世界に転生して学校内を圧倒的力で無双する」というなろう偏見的文脈を免れないんだけど、面白さの要訣は全く違う場所でしたね。
私が魅力と感じたのは以下。

  1. 主人公の狂気なマヌケさ
  2. 主人公以外の純度の高いシリアス
  3. 上記2点を同居させギャップを楽しませながら、分かりやすい文章と構成力。

これら3つを全て達成して一つの作品として纏めるのはメチャクチャ難しいと思います。
というか「そんな事出来る人いるんだ」ぐらいの印象。

3つ目の「ギャップを楽しませながら分かりやすい文章と構成力」の確立が難敵で、主要キャラクターを上手く絞らないと取っ散らかっちゃうんですよね。
キャラクターの配置も無駄がなくて上手いと思う。

このバランスは多分、他の人はマネ出来ないんじゃないかなー。
この読み味が好きな人には本作から離れられないような気がする。

でもこの面白さ分析、王道的解釈の自信ないです。
何となくストレートに「カッコイイ話」として受け止める層もあるような気がするんだよな。
そしてその層の方が多い可能性も……


私は本作が発表された当時の背景やトレンドを知らないけど、もしかして「異世界転生して無双する」という人気文脈は、なろう界隈で読んでもらえる必須条件なのか?と思い始めた。
本作って異世界転生の設定はちゃんと活用してるんですが、「異世界転生は描きたい事には直結していない」という印象もあるんですよね。

なろう系って、何かもっと「異世界転生というギミックの便利さ」に頼りまくってるイメージがあったんですよね。
未履修だけど質の低い作品は、もしかしたら偏見通り異世界転生に頼ったり振り回されたりしてる作品もあるのかもしれない。
ただ本作や『無職転生』は、むしろ「トレンド要素を押さえつつ、やりたい事を書いてる」気がするんですよね。

まぁ、あくまで「毛色の違うたった2作を読んだだけの邪推」に過ぎないので、何とも言えない。

さて『陰の実力者になりたくて』、小説家になろう総合ランキング6位も納得の、絶妙かつ独特なバランスに優れた内容でした。

東西 (イラスト), 逢沢 大介 (著)KADOKAWA (2018/11/5)
坂野 杏梨 (著), 逢沢 大介 (その他), 東西 (その他) KADOKAWA (2019/7/25)
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